筆者が新卒で会社員になった1980年代、パソコンはまだ普及しておらず、パソコンが使えないどころか、パソコンを見たこともない人がほとんどだった。
幸か不幸か、筆者の部署にはHP-3000という米国製ミニコンがあった。ミニコンだけにCPUは別のビルに四畳半ほどのスペースをあてがわれていた。本社以外に全国数カ所の端末からもアクセスしていた。CPUをタイムシェアリングして使う設計だ。ハードディスク装置などの筐体はウッド調デザインで家具そのもの。車で言えばカリフォルニアデザイン。いかした木目のステーションワゴンだった。
マニュアル、システム、画面表示、すべて英語のみ。サポートは日本人SEだったので、メンテナンスで来社の折に日本語で質問ができた。
アプリはないがいくつかのプログラム言語とリレーショナルデータベースが使えたので、新人の筆者が業務用プログラムを書き起こすことになった。行列式、ベクトル式、確率など高校時代の数学が初めて役に立った。
と言っても、いきなりプログラムが書けるはずもなく、最初は紙に描いたキーボードをたたいて、タイピングの練習をした記憶がある。あれが役に立ったのかはっきりしない。
小学校の頃、音楽の教科書の裏表紙は決まって紙の鍵盤だった。子供でさえも紙なんてとバカにしていたが、まさか大人になってやらされるとは・・・。
HP Computer Museum 3000 Series 30
http://www.hpmuseum.net/display_item.php?hw=104
コンピュータの活用を命じた上司は、端末のそばに来るときはいつも腕組みをしていた。
いま振り返るとどうやら、「ほらオレ腕組みしてるだろ、だから今だけはキーボードにさわれないんだよ、エヘヘ。」という意思表示らしかった。筆者はそんなこととはつゆ知らず、質問などして露骨にいやがられていた。
最近は、年配の上司ではなく、若者が腕組みをしてパソコン拒否をしているらしい。
「スマホOK、PCは使えない」 そんな新人が急増中、「被害」報告相次ぐ
今や多くの会社で、仕事をする上でパソコンは必需品となっている。普段は教えを請う側の若手社員が、パソコン操作に関しては年配の社員に教える側に、という光景は多くのオフィスで見られるのでは。
ところが、数年内に若手社員に頼れなくなる時代が到来してしまうかもしれない。何と、パソコンが使えない新入社員が増えているらしいのだ。
(J-CASTニュース・会社ウォッチ 2015年6月11日掲出)
http://www.j-cast.com/kaisha/2015/06/11237227.html
小さい頃からケータイやスマホを相手に育ってきたのだから、今更パソコンを覚えろと言われても、というのが若者たち新人の意見だろう。
メール、調べ物、文書の閲覧や作成までこなせるスマホは、機動性、即時性においてパソコンを遙かに凌駕している。
なぜ、会社はスマホで仕事させてくれないのか、と疑問を持つまでに若者の意識は変化しているのだろう。その気持ち、わからなくもない。
ただスマホの決定的な弱点を言うと、データの受け渡しがインターネットを経由する場合、通信会社やクラウドサーバーを介さないといけない点だ。企業は自社の情報資源を、データ漏洩や傍受の危険にさらすほど甘くはない。メモリーインターフェイスのないiPhone/iPadは特に用をなさない。iPhone/iPadの生みの親、スティーブ・ジョブズはこう言うだろう。「Macintoshを買ってもらいなさい。そうなるようにiPhone/iPadを設計したんだよ」と。
パソコンを使えないと嘆いても特効薬はない。いずれ新人君が経営者となれば、スマホで業務という日もやってくるかもしれない。
それまでの間、腕を組んだりして先輩にどやされるか、腕組みを解いて紙のキーボードからやり直すか。今のところはどちらか選ぶしかなさそうだ。(水)