5月の連休から読み始めて、ようやく読み終わりました。約600ページ、原注まで入れると650ページの『チューリングの大聖堂』(吉田三知世訳、早川書房)、著者:ジョージ・ダイソン・原書名:『Turing's Cathedral』。
タイトル通りにチューリングの評伝かと思うと少し期待はずれですが、コンピュータが誕生した1940~50年代を臨場感たっぷりに味わえる貴重な一冊です。
ライプニッツは17世紀末に、すべての自然の摂理は0と1の組み合わせ、2進法で表現できると書き残しました。250年後の1930年代、この2進法を使った電子的なオンオフで、すべての演算が可能なことを証明したのがイギリスの数学者、チューリングです。そして、フォン・ノイマンをリーダーとするチームは、この理論を応用してコマンド、アドレス、アプリケーションという概念を確立し、MANIACを誕生させました。
現在私たちが使っているPCはすべからく、2進法のCPUとメモリで構成されたハードウェア上でアプリケーションを走らせています。この仕組みは、MANIACの時代からひとつも変わっていないことに驚かされます。
わかりやすく言い換えるなら、コンピュータとは江戸時代中期に原理が考案され、70年前に完成した極めてクラシックな道具とも言えるのです。
この本で初めて知ったことがありました。気象予報や流体力学、乱数、人工知能など重要なテクノロジーが、わずか5KバイトメモリのMANIACを駆使して始まったそうです。
CGでは今なお新たな技術が生まれているモンテカルロ法、自然の描写には欠かせないノイズや確率など、筆者はご先祖様に出会ったような気分で楽しく読むことができました。
■ノイズを使って描画した仮想店舗(筆者作成)
・参考CG(筆者作成):NoNeedNew
興味深い話をひとつ。2005年、米国の大手検索会社ではあらゆる本をデジタル化するプロジェクトを立ち上げていた。その目的は本をデジタル化して多くの人に読んでもらうためでも、電子ブック事業を立ち上げるためでもなかった。
真の目的は、彼らが開発しているAI(人工知能)に世界中のあらゆる知識を覚え込ませるためであった。
今もこのプロジェクトは進行しているのでしょうか。
後でググってみようかな。(水)