「できる!」ビジネスマンの雑学
2015年05月27日
[059]何ともならない日本のバター不足

 バターが足りない。バターの箱が驚くほど薄くなった。バターが痩せてしまった。そんな気がしませんか。
「バターはどこに消えた」と叫びたくなる、今日この頃です。

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■最近、うちのバターが痩せました。

 2008年のバター不足の頃、筆者は業界団体や乳業メーカーに取材をした経験があります。しかし、たった一度の取材だけでは、バターが不足する真の原因はわからずじまいでした。

 そこで今回は、2006年から日本のバター不足の歴史を振り返ってみました。

【日本のバター不足 10年史】
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★2006年 バター過剰★
・牛乳の消費低迷 バターの過剰在庫
・3月 農水省減産指導、900トンの生乳を廃棄
・ホクレン、大手乳業メーカー3社に国産チーズ工場建設を依頼
・乳牛の頭数削除
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★2008年 バター品切★
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東日本大震災(2011)
★2011年 バター品薄★
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2013年
・チーズ補助金88億円を計上
  「チーズ向け生乳供給安定対策事業」
・チーズ向け乳価補填60億円を計上
  「工原料乳等生産者経営安定対策事」
・猛暑(2013)
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★2014年 バター品切★
・11月 7000t輸入
・2015年2月 2800t輸入
・2015年3月まで13000tを輸入
 (業務用25キロバラバター)
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★2015年 バター品薄予測★
(需要747000t-生産648000t)
・生乳生産基盤の強化
・5キロ以下サイズも輸入
・5月26日 9900t不足見通し
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 2006年に生乳廃棄処分、乳牛の頭数削減による生産調整を行って以降、3年おきにバター不足を繰り返しています。特に昨年12月は町のケーキ屋さんですらバターが手に入らず、クリスマスケーキを数量限定で販売したお店があったほどです。年に一度きりの稼ぎ時を失したわけです。

 生乳の生産は1996年度の865万トンをピークに2013年は750万トンと100万トン以上を減らしています。
 酪農家の後継者不足、生産コストの上昇・採算割れによる廃業などで生産力が落ちているようです。消費の面でも、少子化、牛乳の需要減で生乳の消費量も徐々に減っています。
 しかし牛乳やチーズが足りないという話はここ10年聞いたことはありませんから、この需給バランスの崩れはバターだけに起きているようです。

 2008年は国内メーカーのバター増産で不足を解消していましたが、現在は、いきなりの緊急輸入。しかも、2015年からは継続的な輸入、ケーキ店でそのまま使える5キロ以下の小分けサイズも許可と緊急性が高くなっています。

バター、今年も品薄か...業務用を緊急輸入へ
 生乳生産者や乳業メーカーで作る一般社団法人「Jミルク」は25日、2015年度の国産バターの生産量が需要量に対して9900トン不足する見通しだと発表した。
 14年度に家庭用バターが全国で品薄となったこともあり、農林水産省はクリスマスシーズンに向けて安定供給を図るため、10月までに業務用バターを緊急輸入することを月内に決める方針だ。
ヨミウリ・オンライン・経済 2015年5月26日掲出」)

 農水省が推進している食料自給率アップ活動はどこへ行ったのでしょうか。
「知ってる?日本の食料事情」
~日本の食料安全保障と食料自給率・食料自給力~

 チーズに厚い補助金を出しておきながら、ここ10年で3度もバターの供給に失敗していますから、バターに関しては自給率などに構っていられないのかもしれません。
 しかし、酪農家を税金で保護する一方、1万トン(年間消費量の13.5%)ものバターを緊急輸入するのは行政の矛盾ではないでしょうか。海外では200円以下で買えるバターが、わが国では日本の酪農を保護するためとはいえ、倍以上の値段でしか買えません。しかも、輸入バターには360%もの関税がかけられており、商社なども自由に輸入はできない仕組みだそうです。監督官庁が需給バランスをコントロールできないのであれば、バターは輸入を自由化して、価格や需給は市場原理にまかせたほうが賢い選択と思えます。

 2008年に農水省は「減らした乳牛はすぐに戻らない」と言っていましたが、あれから7年。いまだに乳牛は育っていないのでしょうか。バター生産量の9割は北海道のようです。しろうと考えですが、北海道をきめ細かく見るだけで、自給率9割は達成できるのではないでしょうか。
 これからも助成金を使って酪農家を保護するのであれば、自給でまかなえるはずのバターを、棚から消さないでほしいものですね。(水)

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