連休中にうれしいニュースが飛び込んできました。日本国内にある23の歴史的遺構で構成する「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産へ登録される見込みとのことです。
そのなかのひとつ、静岡県伊豆の国市にある「韮山(にらやま)反射炉」は、数年前に家族旅行で訪れたことがあります。
人出にびっくり...世界遺産勧告で韮山反射炉など
ユネスコの諮問機関「国際記念物遺跡会議(イコモス)」から世界文化遺産への登録が勧告された各地は5日、大型連休も重なって多くの観光客でにぎわった。(中略)
静岡県伊豆の国市の韮山反射炉には、午前9時の開場前から約100人が並び、5日の入場者数は4626人と前年の7倍超に。
(ヨミウリ・オンライン・社会 2015年5月7日掲出)
3~4年前に訪れたときもゴールデンウィーク中でしたが、訪れる人は筆者家族以外になく、とても静かな場所でした。時折、やってくる観光バスも、近くにある茶摘み体験ができるお茶園が目的のようでした。
その分、かがみこんで反射炉の中をのぞき込んだり、じっくりと構造を観察できて、鉄オタクには大変な意義のある遺構です。
実はこの反射炉、当時の代官、江川英龍の発案で建設が始められましたが、オランダ語の古い技術書しか資料がなく、なかなか完成しなかったようです。そのためすでに反射炉を稼働させていた佐賀藩(当時は鍋島藩)に頼んで技術者を派遣してもらい、ようやく稼働にこぎ着けたようです。
反射炉についてはこちら
[伊豆の国市・国指定史跡韮山反射炉]
当時の製鉄の様子が動画で確認できます
[韮山反射炉CGアニメーション・伊豆の国市制作]
しかし、当時佐賀藩が独自に完成させていたのは西洋でも最先端技術と言われたアームストロング砲。この製造技術まではなぜか教えていません。上野の山を主戦場とした戊辰戦争では、結局このアームストロング砲に幕府軍はなぎ倒されました。この経緯は『アームストロング砲』(著:司馬遼太郎・講談社文庫)に詳しく書かれています。もちろん司馬小説ですから異説も多いため、あくまでも娯楽小説として話半分に読む必要はありますが。
この産業革命遺産ですが、意外なことに海外の方のアドバイスで登録を目指すことになったようです。
構成資産全体で価値証明=海外識者の助言生かす-産業革命遺産
明治日本の産業革命遺産は、同じ歴史背景を持つ23の構成資産全体で顕著な普遍的価値をアピールする「シリアルノミネーション」と呼ばれる手法で、世界文化遺産にふさわしいことを証明した。提唱したのは昨年4月に亡くなった元国際産業遺産保存委員会事務局長のスチュアート・スミス氏。薩摩藩に関する博物館「尚古集成館」(鹿児島市)の田村省三館長は「スミス氏がいなければここまで来られなかった。存命ならきっと喜んでもらえたのに」と悼んだ。(中略)
当初は九州・山口だけだったが、技術の融合や広がりを示すため、静岡県の韮山反射炉や岩手県の橋野鉄鉱山・高炉も加えてストーリーを補完した。田村さんは「スミス氏ら海外有識者の意見を聞いて構成資産や説明を何度も練り直した。一丸となって殖産興業に取り組んだ日本人の努力を示す遺産で、どれが欠けても成立しないと考えている」と振り返った。
(引用:時事ドットコム 2015年5月4日)
これら23ヵ所の産業革命遺産群を正確に言うと、「江戸・明治日本の産業革命遺産」が正しいタイトルかもしれませんね。
江戸幕府の官僚たちの奮闘を見ながら、ひそかに爪を研いでいた外様藩たち。そのせめぎ合いの歴史も、いまは深い緑の中に休んでいます。(水)