「できる!」ビジネスマンの雑学
2015年03月18日
[014]派遣は「モノ扱い」で読み解く派遣業界の動き

派遣法改正案:厚労省課長「ようやく人間扱い」発言
 今国会に提出予定の労働者派遣法改正案を巡り、厚生労働省の担当課長が業界団体の新年会のスピーチで「(派遣労働者は)モノ扱いだったのが、ようやく人間扱いする法律になってきた」と発言したことが2日、明らかになった。民主党の西村智奈美議員が衆院予算委員会で取り上げ、「こんな考え方で改正案を出しているのか」と追及。塩崎恭久厚労相は「派遣の立場を強化しようとの意味で言ったのだろう」としたうえで「しっかりと調べたい」と答弁した。(毎日新聞 2015年03月02日 19時41分)

 この発言は今年1月27日に開かれた日本人材派遣協会の新年賀詞交歓会でのことです。二ヶ月も前のしかも飲み会での挨拶をいまさら蒸し返されてもですが、おかげで労働者派遣法改正案が注目される事となりました。
 第186回国会(平成26年2月~3月)で一度提出したはずの労働者派遣法改正案でしたが、厚生労働省の記載ミスなどもあり二度も流れてしまい、ようやく今年の第189回国会に提出されました。

●これからは3年ごとにやってくる首の付け替え
 ではこの改正案で派遣労働者は「人間らしく」なれるのでしょうか。
 結論から言うと派遣会社の胸三寸、つまりあまり変わらない。
 いままで26業種の専門職に限られていた3年超の長期派遣は、今後全業種とも原則禁止となります。3年を超える場合は正社員化を促されることに。待遇改善を訴えてきた派遣労働者にとっては朗報かと思われました。
 一方で雇用主は3年後に別の派遣社員に変えることで派遣契約を継続できるようにもなります。派遣会社が3年ごとに新人を供給すれば、企業は永続して派遣社員を使い続けることができます。
 言い方は悪いですが、労働者の首さえつけ変えればいつまでも派遣契約を維持できると言うことです。

第189回国会(臨時会)提出法律案 概要 [112KB]

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●派遣労働者のキャリアアップはなぜ法案になったのか
 厚生労働省が第189回国会に提出した提出法律案のなかで、たったひとつだけですが筆者が注目したのは「派遣労働者の雇用安定とキャリアアップ」です。

 派遣会社は派遣労働者の能力やスキル、人柄によって自社の評価を大きく左右されてきた側面があります。企業の期待以上に働いてくれる「腕のたつ職人」さえ集めておけば派遣会社は安泰なわけです。派遣元の営業は稼働している現場を見るより、新規の営業活動、つまり企業からくる派遣の御用聞きにのみ精力を注いでいればよかったのです。その傾向は今も変わりありません。
 不況が続いた時代には質のよい労働者も簡単に補充できましたから、自前で労働者を育てる必要はなかったのです。

 このアンバランスな企業体質でも問題になることはなく、派遣を押し込む先の企業しか見ていなかった時代がながらく続いてきました。

 その企業姿勢には登録者を教育しよう、今後の業務のためにトレーニングさせておこうという意識は薄く、従って教育設備もおろそかと言わざるを得ませんでした。


「お金をかけて派遣を教育しても、よその派遣会社にとられてしまえば丸損」
「教育しても押し込む先がなければ労働者ともども共倒れ」
「勉強もイヤ、努力もイヤ。向上心がないから派遣労働者になった人間に教育は不要」
「頭数(あたまかず:注文の人数)を揃えるのが先。仕事は見て覚えろ」
「業務のスキルアップは職場で身につけるもの」

 こうした声をたくさん聞いてきた身としては、自前で教育したらどうかと周りから言われない限りこの体質は変わらないだろうと思っていました。

●新人が経験を積める場所ではない派遣現場
 経験を積んだ労働者なら派遣先は引く手あまたですが、高校や大学を出たばかりの新人はどうなるでしょう。スキルどころか勤務経験すらありませんから、派遣先で思わぬ失敗をしでかすかもしれません。派遣会社の営業は常にクレームを恐れていますから、未経験者に仕事を回さず、新人の派遣要員はいくら待っても仕事はなくその結果、スキルが身につかない若年層は労働意欲すら失われるという悪循環に陥ってしまいます。

 漁業には「栽培漁業」という言葉があります。稚魚になるまでの期間を手塩にかけて育て、海に放流したあとは成長するのを待って漁獲するシステムです。
 派遣業が一過性のあだ花的産業であれば、経験者を食い尽くして廃業すればいいでしょう。だが協会まで作って存続する気があるのなら、企業から放出される労働者を投網で奪い合うだけでなく、新人を育て供給する生き方も模索したらいかがであろうか。

 この法案が抜け穴や骨抜きなく施行されることで、教育は公立の職業訓練施設にまかせておけという態度を派遣業界が改めてくれるよう期待したい。

そう願ってやみません。

出典:厚生労働省ホームページ
第189回国会(常会)提出法律案
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案(平成27年3月13日)

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