世間の常識は音を立てずに変わっていく
「この記事、これで終わりだよね。」に受けた衝撃の大きさ。
この話はわたしが専門学校で講師をしていたときの出来事です。
就職試験で必要な読解力を身につけてもらおうと、学生たちに新聞の切り抜きを読ませていました。ゲームの年齢制限が日米で違うことをまとめた内容で、ゲーム学科の学生たちにも興味あるテーマでした。
男子学生のひとりに音読させていたところ、ある箇所でぴたりと声が止まりました。戸惑っているようです。
ん、どうしたのかな。
「先生、この記事これで終わりだよね。続きがないし」
驚きのひと言。わたしが記事を切り抜きそこねたわけではありません。全文そろっていました。
ただ、記事のレイアウト通りに切り抜いたため、左端から下の段の真ん中辺りに不規則に飛んでいました。他の記事や写真などの都合上、新聞では良くあるレイアウトです。
学生は左端まで読んだが続きが見つからず、これでこの話はおわりだと判断したようです。
記事の続きは下の段のどこかにあるから、探しながら読むんだよと教えましたが、大部分の学生は不思議そうな顔で聞いていました。スマートフォンを持ち歩く21世紀の学生にとって、ニュースはそもそも横書きであり、指でスクロールしながら読むかスマホに読み上げさせるものですから。
このことから気づかされたことは18歳から二十歳の若者は紙の新聞を読んだ経験が少ないこと、そのため読み方を知らないことでした。たとえ読んだとしても尻切れトンボの記事ですから(もちろん誤解ですが)「続きはウェブへ」形式のステマ(※1)程度に思われているようでした。
「社会に出る前に新聞くらい読めるようになれ」とはもう言えなくなってきたことを実感しました。
世の中の常識がいま、音もたてずに変わっています。
新聞社が輪転機(※2)を手放したくないなら、新聞の一面記事に「紙の新聞の読み方」という取扱説明書を載せる日もそう遠いことではなさそうです。
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※1 ステマ=ステルスマーケティングの略。ニュースや情報提供を装いながら、特定の商品やサービスの購入へ読者を誘導する広告手法のこと。
※2 輪転機=紙の新聞を大量に刷るための印刷機。書き上げた記事をすぐに印刷できるよう、記者のいる社屋に輪転機を設置している新聞社もある。