仲間。という言葉を聞いて、どんなものを思い浮かべるでしょう。共に戦う、助け合う、なぐさめ合う、いつも一緒にいる、時々はケンカをしても最後は仲直り?
わたしが紹介したいのは、そんな熱いイメージからは程遠い『ムーミン谷の仲間たち』です。
もちろんこのタイトルは和訳されたものなのでもともとのそれとは違い、原題を直訳すると「目に見えない子とほかの物語」、英語版を直訳すると「ムーミン谷の物語」といったふうなのですが、わたしは仲間たち、という日本語訳も、かなりの意訳ですがなかなかいいと思います。直截的なようでいて曖昧で。
ムーミンシリーズは、日本ではむかしのアニメの印象が強いかもしれません。しかし、残念ながらアニメは偽物だったのかもしれない、と思うくらい、小説は雰囲気が違います(といっても、放送をみていた頃わたしはたぶん幼稚園くらいなので、あくまでイメージで)。アニメは確か、かわいい、やさしい雰囲気だったと記憶しているのですが、小説はすこし乾いていて、淡々としているのです。
小説ムーミンシリーズには、ホムサ、はい虫、ヘムル、フィリフヨンカ......といった、その呼び名が名前なんだか種族なんだかわからない生き物がたくさん出てきます。彼らは嘘つきだったり臆病だったり、恥ずかしがり屋だったり意地悪だったりと、個性もばらばら。
だから言い合いになることもあるのですが、それでも基本的には、まあしょうがない、とお互い思っているような節があります。同じムーミン谷に棲む仲間だとしても、それぞれが別の生き物で別の個体である以上考え方や性格は違って当然だと、わかっているのだと思います。
ほんとうに変なやつが多いのですが、それでも一緒にいたりいなかったり、友情もあったりなかったり、時々は会話して、違ってもぶつかっても構わないしさほど気にしない、そういう「仲間」って、悪くない。
そうはいっても読書の感想もそれぞれなので、もしかしたら同じものを読んでも全然違う感想を持つ人もあると思います。違っても同じでも、まあしょうがない、違ったらすこし違いをたのしんで、あとは気にしないことです。
読んだことのない方には、この『ムーミン谷の仲間たち』はムーミンシリーズのなかで唯一の短篇で読みやすく、お話としてもおもしろいものが多いので、おすすめだけしておきます。
あと最後に......、りんごチーズ、こけもものパイ、パンケーキ、ピクルス、さかなスープ、あたたかいジュース!
ムーミンのお話に出てくる食べ物は、そう多くはないのですが印象的でおいしそうなのもポイント。「かさかさになったビスケット」にさえちょっぴりそそられます。物語に出てくる食べ物がすきな方にも、そこはおすすめです。
ささおき書店
藤原千代
『新装版 ムーミン谷の仲間たち (講談社文庫)』
著者:トーベ・ヤンソン (著), 山室 静 (翻訳)
出版社:講談社
ISBN: 978-4062769372