「前向きですね」という言葉を掛けていただくと、
褒めていただいたような心地で、たちまち嬉しくなってしまいます。
ところがそもそも、この「前を向く」性質は、
ヒトが人間として存在したところから備わっているのかもしれません。
本著は動物行動学者、日髙敏隆氏の精華大学での講義録です。
人間個人としての能力云々以前の、生物として備わっている能力、
メカニズムを説いています。
例えば、「おっぱい」の講。
動物の乳房は、子どもに乳を与えやすいことのみを想定して形成されています。しかし人間だけは、見栄えも美しい、男性を魅了する性的信号も兼ね備えた、二重の働きをする器官なのです。
おサルのメスは真っ赤っ赤なお尻が、丈夫で魅力的であるというアピールです。しかし二足歩行になった人間は、お尻が目立つ器官ではなくなってしまいました。
そこで目につきやすい乳房が性的信号になったようです。
それについて、日髙氏はデズモンド・モリスの考えを紹介しているのですが、
お尻にかわる性的信号を前向きに出したい、ということで今の「おっぱい」は、男性を魅了する美しい形をしているのではないかと締めくくっています。
人間の進化とは本当に面白く、素晴らしい変遷であることを改めて実感します。
少なくとも、私には、おっぱいがツンと前を向いて備わっていることが
人間の前進しかできない生き方を肯定している気がするのです。
ジュンク堂書店神戸住吉店
大谷 明日香タイトル:『ぼくの生物学講義 人間を知る手がかり』
著者:日髙 敏隆
出版社:昭和堂
ISBN:978-4-8122-1043-7
本体価格:1800円