佐藤忠良という彫刻家はご存知でしょうか?
昨年3月に98歳で逝去されました。昨年5月に私は仙台に行き、宮城県美術館に寄り、佐藤さんの彫刻に触れてきました。その際に出会ったのがこの『若き芸術家たちへ』です。
画家の安野光雅との対談でとても単純だけど含蓄が深い。いくら彫刻を重ねても自然にはかなわない。自分の思いと現前させた作品とには必ず差異がある。だからこそ、コンチクショーと何度も挑み続ける。なぜこの本を紹介したいと思ったか。皆が芸術家だと思うからです。今こそ大自然との調和した生活が求めれていると感じるからです。
生きている人は皆自分の人生を創り上げる途中にいます。大震災で露呈した思いと現実との途方もない差異。怒り、絶望、喪失、悲嘆、後悔。復興の困難。それでも人は差異があればこそコンチクショーと前に進みます。一人でどうしようもないときは周りの人が代わりになります。
芸術は意識と現実とのずれに働く。厳しくも豊かな日本の自然との調和を生涯探究し、具体化した人からにじみ出す言葉。副題は「ねがいは「普通」」です。皆が日常で行なっていることだから。
佐藤さんはシベリア抑留生活を3年強いられました。世間的に「偉い」人たちは早々に心身を破綻させた。一方で農民、大工などの庶民たちは力強く優しかった。そこから日本人による日本人のための彫刻が生まれました。
佐藤さんの彫刻の前に立つと、自ずと生命力が、言葉が動き出します。裸婦と対面すると、もうなんともたまらなくなってくる。佐藤忠良の彫刻とともにこの本をおすすめします。失敗こそが成長の源だと思い知らされます。
リブロ池袋本店 菊田 和弘
書名:若き芸術家たちへ ねがいは「普通」
著者:佐藤忠良 安野光雅
出版社:中公文庫
ISBN:978-4-12-205440-0
本体価格:876円