何かをやりたいと願い、それが実現するときというのは、不思議なくらい他人が気にならない。意識のなかから他人という概念がそっくりそのまま抜け落ちて、あとはもう、自分しかない。だれが馬鹿だとか、だれが実力不足だとか、だれが理解しないとか、だれが自分より上でだれが下かとか、本当にいっさい、頭から消え失せる。それはなんだか隅々まで日にさらされた広大な野っぱらにいるような、すがすがしくも心細い、小便をもらしてしまいそうな心持ちなのだ。自分を認めないだれかをこき下ろしているあいだはその野っぱらに決していくことはできないし、野っぱらを見ることがなければほしいものはいつまでたっても手に入らない。
ちょっと長くなりましたが、上記は「くまちゃん」からの引用です。
本を読んでいると、時に「忘れられない一文」に出くわすことがありますが、これは私が最近出会った特別な文章です。なんだかヒヤッとさせられる文章だと思いませんか?
「くまちゃん」は主人公達が次々にフラれていく恋愛小説ですが、仕事と恋愛の関係を描いた傑作だと思います。読みながら、「成功ってなんだろう」「幸せってなんだろう」など考えさせられます。
隣の芝生はいつも青く見えるし、誰かの顔色をうかがったり、何かを誰かのせいにしたり、人はいつも他人を気にして生きているものだと思います。
でも人と比べて「成功した」とか「幸せ」とかいう思いがあるとき、それは本物の気持ちにはならないんだろうなあと思います。
仕事をしていて「これくらい頑張ればいいかな」と自然と力をセーブしてしまうことがあります。これも他人の目を気にした上での尺度なんだと思います。
ルーティンワークが多い仕事だと、昨日と今日で違いがなく成長もしない状態に簡単に陥れてしまう気がして、たまに恐ろしくなります。
実現したいこと、達成したい目標や課題を直視して、自分といちいち向き合っていかなければ本物の成果は得られないのだと、私は「くまちゃん」を読んで胸に刻みました。そして「すがすがしい野原に一人で立つような気持ちでチャレンジし続けないところに成功はない!」ということを、私は仕事に対する指針として新たに加えたのでした。
「くまちゃん」というかわいらしいタイトルに騙されることなかれ。
これは仕事(そして恋)に悩む全てのビジネスマンに読んで欲しい一冊です!
有隣堂 新百合ヶ丘店
門脇 順子
書名:『くまちゃん』
著者:角田光代
出版社:新潮社・新潮文庫
ISBN:978-4101058283
本体価格:620円