こんにちは。
大垣書店商品部の吉川です。
前回の書評を書いてから今回私の順番が回ってくるまでの間に大震災がありました。
当たり前のようにあった幸福は奇跡の塊で、とても貴重なものであった事を思い知りました。また遠くにいる自分が、被災者の方たちの力になれる事を考えると、貢献できることは少なく、自分の無力さを思い知りました。
いろいろな事を自粛するのではなく、以前と同じように経済活動を行い、安定した支援を継続できる体制を整えておくこと。その為には健康な精神、身体を維持して、経済的にも安定を確保すること。それが今の私にできることだと思っています。
また、幸福の脆さを実感するとともに、だからこそ、今生きているという事実、当たり前のように周りに居てくれる人々、毎日の暮しに感謝して、大切に扱おうという気持ちが強くなりました。
毎日を丁寧に生きるための一助となる本として、私が今回おすすめするのは『それでもなお、人を愛しなさい』。
この本に書かれているのはとてもシンプルな「10カ条」です。
1.人は不合理で、わからず屋で、わがままな存在だ。それでもなお、人を愛しなさい。
2.何か良いことをすれば、隠された利己的な動機があるはずだと人に責められるだろう。それでもなお、良いことをしなさい。
3.成功すれば、うその友だちと本物の敵を得ることになる。それでもなお、成功しなさい。
4.今日の善行は明日になれば忘れられてしまうだろう。それでもなお、良いことをしなさい。
5.正直で素直なあり方はあなたを無防備にするだろう。それでもなお、正直で素直なあなたでいなさい。
6.最大の考えをもった最も大きな男女は、最小の心をもった最も小さな男女によって撃ち落されるかもしれない。それでもなお、大きな考えを持ちなさい。
7.人は弱者をひいきにはするが、勝者の後にしかついていかない。それでもなお、弱者のために戦いなさい。
8.何年もかけて築いたものが一夜にして崩れ去るかもしれない。それでもなお、築きあげなさい。
9.人が本当に助けを必要としていても、実際に助けの手を差し伸べると攻撃されるかもしれない。それでもなお、人を助けなさい。
10.世界のために最善を尽くしても、その見返りにひどい仕打ちを受けるかもしれない。それでもなお、世界のために最善を尽くしなさい。
実直に生きていても、必ずしも平穏無事な人生を送れる訳ではないし、能力や真摯さによって必ずしも人が評価されるわけではなく、差別のない世界を目指しながらも平等はまだ達成されていません。
その事実を認めたうえで著者は言い切るのです。「この世界は狂っている」と。
しかし「あなたは狂っていない」。
今回の震災で、築き上げたものが一瞬で崩壊する瞬間を目にし、形あるものはいつか滅びるという事実を突きつけられました。それでもなお、築き上げなさいと本書は説きます。
崩れ落ちようとも、築き上げる行為は尊く、築き上げる行為そのものが喜びと満足を私達にもたらしてくれるからです。
また、他人に感謝されようがされまいが、自分にとって意味があるという、それだけの理由で、自分にとっての善行を実行すること。
自分にとっての正義を実行できるという自由を享受し、自分にとっては意味があるというそれだけの理由で善行を行う事だけが、この狂った世界から自分が自由になるための手段であると本書の中では説かれています。
この震災で滅びなかったのは人が人を思う心でした。様々な地域に住まう人々の正しい行いの積み重ねが、傷ついた人の心を癒し、支え、復興への力となっています。
傷ついても、裏切られても「それでもなお」と正しい一歩を踏み出す事の大切さを思い知らされる一冊です。
書名:それでもなお、人を愛しなさい
―人生の意味を見つけるための逆説の10カ条
著者: ケント・M. キース
翻訳:大内 博
出版社:早川書房
ISBN: 978-4152091543
本体価格:1050円
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