大震災から一か月。この書評の当番が回ってきたことを知ったのが3月31日。今、どんな本を紹介すればいいのか、自分の全体を検索しました。やはり金子みすゞがいいかと思って読み直したけど、みすゞの不幸がのしかかってきてやめた。『悲しい本』という絵本にしようかとも思って再読したけど、直接的すぎる気がした。長田弘の『詩ふたつ』も引っかかって、もう一度読んだけど、手軽には読めないなと思った。
最終的に、僕の心が向かったのは『あしながおじさん』でした。「あしながおじさん」はもちろん知っていた。しかし、読んだことがなかった。本棚に、この時まで読まれるのを待っていてくれたのだと思った。
両親に捨てられた孤児ジュディが、孤児院でこき使われ、本当に愛されたこともないまま高校卒業を迎えた。彼女には文才があった。「ゆううつな水曜日」という作文に目を止めた評議員(金持ちの慈善家)が大学に行かせたい、彼女を作家にしたいと申し出る。ただし、月一回の手紙を必ず書くことを条件にして。
手紙で成り立っている小説。ジュディの絵を交えたおしゃべりにどんどん引き込まれる。孤児院で、手紙の相手の影だけを見たことがあった。背が高くて足が長い。
だからジュディは「あしながおじさん」と呼ぶようになった。
おじさんは禿げていますか?なんて尋ねる。孤児院から出たことのないジュディには、見ること
なすことすべてが新しくておもしろい。「あしながおじさん」は、ジュディにとっておばあちゃんにも
お父さんにもお母さんにもなる。産まれて初めて持った家族。初めて心から愛する人。誠実な
ジュディの告白に僕もまた世界を見る目が洗われていきました。
こんなにも生きることは楽しく、わくわくするものなのだと思い出させてくれた。
ラスト。ジュディはついに「あしながおじさん」と会うことができます。僕も最後まで彼が誰なのか
わからなかった。正体がわかってから再び読むとまた味わい深い。支援する側の迷いや苦しみ
も伝わってくる。またこの話には後日談として『続あしながおじさん』も発表されています。まだ
読んでいないけど楽しみが一つ増えました。
運命としか言いようがない困難にある人と、裕福な支援できる人と。その関係は、被災者と
非被災者との関係に等しいのではないでしょうか。どんな困難にあっても差し出される手はある。
僕もささやかだけど、「あしなが育英会」に寄付しました。一人の人間を、大切に、関心を持ち
続けて見る(看る)ことが必要とされています。自立した生活を送ることができるようになった
ジュディの充足感、真に愛する家族を得たジュディの幸せ。胸に染みて、消えそうになった希望
の明かりを強く輝かせてくれました。
フィクションだからこそ、地獄を見た人たちにとっては癒しや励ましになるのだと知った一冊。この
本を大事に持っていることが希望を見失わないことだと信じます。
リブロ池袋本店地図・ガイド担当 菊田 和弘書名:
あしながおじさん著者:ジーン・ウェブスター(Jean Webster)
翻訳:谷口 由美子
出版社:岩波書店
ISBN:9784001140972
本体価格:756円