気がつくと無意識のうちに「旅に出たいなぁ」と口ごちている。
最近特にひどいなぁ、と自分自身で少々情けなくなる。
取り急ぎ、ジュリア・ロバーツの『食べて、祈って、恋をして』を観に行くも、益々「現実は違いますよ!」
と改めて判子で印を付けられた気分になり帰り道にまた「旅に出たいなぁ」と口にしている。
『空の冒険』は、今 映画『悪人』が話題の吉田修一の最新刊。
既刊『あの空の下で』と、どちらもANAの機内誌に連載された
短編小説とエッセイをまとめたもの。
そもそも私の中での吉田修一さんは、一瞬をきりとる表現が
とても魅力的な作家さんとして、大切なポジションにいる。
この2冊も、本当にその一瞬、一瞬を深く味わえる作品である。
主人公が過去に思いを巡らしたり、自分の生き方を見つめなお
したりするほんの数分を表した作品がある。
10ページにも満たない物語だが、全部を説明しなくても、その
奥にある思いやとまどいをすっと想像させるのだ。
また、『空の冒険』に収録されたエッセイでは、小説『悪人』が
完成してからその作中の舞台を巡った旅が記されている。
それまでは、取材として作品を執筆する前に旅をされることが
多かったのだが、この完成後の旅ではまったく違う感覚になったと綴られている。
小説家ならではのその感慨は、一読の価値あり。
「旅に出たいなぁ」と言いながらも、結局は自分が重い腰を軽くしていないだけ。
「これから、旅して来ます!」と言った時に、ジュリア・ロバーツも現実になるのだろう。
旅に出よう。旅に出る。
もちろん、この2冊を携えて。
今井書店 企画開発本部
津田千鶴佳
書名 :空の冒険
著者 :
出版社 :木楽舎
ISBN:9784863240285
書名 :あの空の下で
著者 :
出版社 :木楽舎
ISBN:9784863240087