文芸書担当をしていた2年前のある日、入荷してきたこの本を目にしたとたんにズキュンと胸を射抜かれて思わず手にとっていたのでした。
「結婚しなくていいですか」
ちょうどアラサーと呼ばれる年代にさしかかっていた私。
酒井順子さんの『負け犬の遠吠え』が話題になったころはまだ20代前半。
そのころは「30才を超えて未婚だと"負け犬"?ふーん」「結婚?30才になるころにはしてるんじゃないかな~」なんて軽く考えていたら、あっという間になんだか微妙なお年頃。
周りの友達はどんどん結婚していって、すでに出産を経験している子も多い。親もなんだかそこのところをうるさく突っ込むようになってきた...。
さてそこで、どうなの、私?
と改めて自分に問いかけるタイミングをまさに迎えていたのです。
仕事は大変だけどやり甲斐があるし、友達と遊んでいるのも楽しいし...。今は自分のためだけに自由に時間を使えているけれど、結婚したらそれは家族のために費やすものになるのだろうか?
若いうちなら一人でいるほうがラクだけど、年を取っていざ"一人"になったときにその"孤独"と
向き合っていけるのだろうか...?
それじゃあ私は何のために結婚したいのだろう?そもそも結婚って、何なのだろう...?
来たるべき30代に向けていいようのない不安を感じつつ、まだギリギリの若さに甘えていたい
なんて自分勝手に悶々としていた私の前に現れた、この作品の主人公"すーちゃん、35才独身"。
勤務先のカフェで新米店長としてバイトの若い子をうまく使う自分に充実感をおぼえつつ、ふいに
頭をよぎる"ひとりの老後"に大きな不安を感じる毎日の中ですーちゃんは自分に問いかけます。
「私の人生って?未来って?」。そのリアルで直球なモノローグはまるで私のココロを見透かされて
いるようで、「そうそう!そうだよ」と深く頷きながらページを繰っているうちに、あれあれ?なんだか
じわじわと視界がぼやけてくるのでした。
日々の暮らしを淡々と、でも腐らず紡いでいくすーちゃんの毎日。
いくら自問自答を繰り返しても、簡単に答えがでることではない。今日からつづいていく明日と
いう日に、人生が180度変わってしまうような出来事が起こるわけでもない。でも、それでいい。
肩の力を抜いて、また明日から自分なりに精一杯生きていきたいと素直に思わせてくれる作品です。
益田ミリさんのゆるいイラストがまた秀逸!
今井書店グループセンター店
竹内麻紀子
結婚しなくていいですか すーちゃんの明日
著者:益田ミリ
出版社:幻冬舎
ISBN:9784344014510
本体価格:1200円