泣けるとか笑えるとかでもなく、そんなに読み返すわけでもないけれど、最初に読んだときの衝撃が消えない、たぶんこの先も手放さないだろうなあ、という本があります。
『生きてるだけで、愛』
ばかみたいに寝すぎたり、それを後悔したり、でもやっぱりどうでもよくなったりしながら引きこもりがちに暮らす主人公寧子。
「よく針が振り切れる」と自分でも言っている、ちょっと変わった二十五歳。
一緒に住んでいる津奈木は、よく言えば寡黙で草食系、悪く言えばつかみどころのない男で、寧子にどんなに理不尽なことで当り散らされても淡々とやり過ごす(そして余計寧子をいらいらさせる)。
しかし結局このふたりは仲良くしあわせになり、めでたしめでたし――とそう簡単にいくお話ではもちろんありえません。
そもそもタイトルに愛という字がつくほどには、恋愛モノとして気軽に紹介できる本ではありません。寧子はほんとに面倒なやつだし、津奈木はほんとに反応の薄いやつだし、こいつらどうしようもない! と思いつつ、それでも一気に読み進めてしまいます。
「人と人とがつながりにくい現代を生きるひとりの女の子の物語。」と単行本の帯には書かれているのですが、いや時代のせいじゃなくてこの人本人の問題だから、と頭の中の冷静な自分のつっこみを感じながらも、ああ、うまくいかないもんなんだよなあ、と寧子に感情移入せずにはいられないのは、私本人の問題なのか本谷有希子さんがうまいせいなのか?
寧子にきいてみたい、きいたところでキレられるか雑な答えが返ってくるかどっちかなんだろうけれど。
そしてラスト、雪の降る深夜にマンションの屋上で――。
真冬の寒さを肌で感じられるこの時期に是非読んでほしい小説です。泣けるとか笑えるとかでもなく、そんなに読み返すわけでもないけれど、もしかしたらちょっとぐっときて、今日からがんばろうと思える、かもしれない一冊です。
ささおき書店
藤原千代
書名 : 生きてるだけで、愛
著者 : 本谷 有希子
出版社 :新潮社
本体価格 : 1,300円
ISBN :9784103017714