今のお店に来てから2年経ちましたが、絶対にエンド台から外せない本があります。
それは今回ご紹介する有吉佐和子『青い壺』。もともと有吉佐和子さんが好きだったわけでもなんでもなく、お客様が気づかせて下さった1冊です。
この本が新装版として出た時、自分の中では単なる文春文庫の新刊の1冊でしかありませんでした。特に品出しをしている時も気にとめるでもなく棚前に置いていました。ところが、毎週売上をチェックするとこの文庫が妙に売れていました。もちろん、その時もあまり気にせずに売れた分+α位で追加をしていましたが、何週も続くと流石の自分も注目するようになりました。全国でも同じような反応があったお店が多かったのか、重版がかかるとのFAXが出版社より届きました。
装丁を見ていただくと分かるように、(良い意味で)非常に地味で、100冊・200冊でどかんと展開するような本ではないと自分では思いました。それでもここまでお客様が買っていただけるとどこまでそれが続くのか反応が見たくなり、棚前からエンド台に場所を移し、4面にしてみたり、いい新刊が出ると1面に縮小してみたりと、あまり主張しすぎることなく、現在までエンド台で展開を続けていますが、コンスタントにまだ売れ続けています。
年配のお客様が多いお店でしたら是非一度お試しください!
啓文堂書店久我山店
荘司正之
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『青い壺』
著者:有吉佐和子
出版社:文藝春秋
ISBN: 978-4167137106
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仲間。という言葉を聞いて、どんなものを思い浮かべるでしょう。共に戦う、助け合う、なぐさめ合う、いつも一緒にいる、時々はケンカをしても最後は仲直り?
わたしが紹介したいのは、そんな熱いイメージからは程遠い『ムーミン谷の仲間たち』です。
もちろんこのタイトルは和訳されたものなのでもともとのそれとは違い、原題を直訳すると「目に見えない子とほかの物語」、英語版を直訳すると「ムーミン谷の物語」といったふうなのですが、わたしは仲間たち、という日本語訳も、かなりの意訳ですがなかなかいいと思います。直截的なようでいて曖昧で。
ムーミンシリーズは、日本ではむかしのアニメの印象が強いかもしれません。しかし、残念ながらアニメは偽物だったのかもしれない、と思うくらい、小説は雰囲気が違います(といっても、放送をみていた頃わたしはたぶん幼稚園くらいなので、あくまでイメージで)。アニメは確か、かわいい、やさしい雰囲気だったと記憶しているのですが、小説はすこし乾いていて、淡々としているのです。
小説ムーミンシリーズには、ホムサ、はい虫、ヘムル、フィリフヨンカ......といった、その呼び名が名前なんだか種族なんだかわからない生き物がたくさん出てきます。彼らは嘘つきだったり臆病だったり、恥ずかしがり屋だったり意地悪だったりと、個性もばらばら。
だから言い合いになることもあるのですが、それでも基本的には、まあしょうがない、とお互い思っているような節があります。同じムーミン谷に棲む仲間だとしても、それぞれが別の生き物で別の個体である以上考え方や性格は違って当然だと、わかっているのだと思います。
ほんとうに変なやつが多いのですが、それでも一緒にいたりいなかったり、友情もあったりなかったり、時々は会話して、違ってもぶつかっても構わないしさほど気にしない、そういう「仲間」って、悪くない。
そうはいっても読書の感想もそれぞれなので、もしかしたら同じものを読んでも全然違う感想を持つ人もあると思います。違っても同じでも、まあしょうがない、違ったらすこし違いをたのしんで、あとは気にしないことです。
読んだことのない方には、この『ムーミン谷の仲間たち』はムーミンシリーズのなかで唯一の短篇で読みやすく、お話としてもおもしろいものが多いので、おすすめだけしておきます。
あと最後に......、りんごチーズ、こけもものパイ、パンケーキ、ピクルス、さかなスープ、あたたかいジュース!
ムーミンのお話に出てくる食べ物は、そう多くはないのですが印象的でおいしそうなのもポイント。「かさかさになったビスケット」にさえちょっぴりそそられます。物語に出てくる食べ物がすきな方にも、そこはおすすめです。
ささおき書店
藤原千代
『新装版 ムーミン谷の仲間たち (講談社文庫)』
著者:トーベ・ヤンソン (著), 山室 静 (翻訳)
出版社:講談社
ISBN: 978-4062769372
「P2P」という単語を耳にしたことはあるだろうか。
「P2P」とは、「Pole to Pole 2000」。
世界中から選抜された8人の若者が、北極から南極までスキーや自転車など人力だけで踏破する、2000年に行われた冒険プロジェクトだ。この挑戦に日本人として唯一参加した当時23歳の青年が、石川直樹氏である。石川氏は翌2001年にチョモランマ登頂に成功し、世界最年少(当時)で七大陸最高峰登頂を達成。2008年に『最後の冒険家』で開高健ノンフィクション賞を受賞するなど、作家としても頭角を現している新進気鋭の写真家だ。
今回私が紹介するのは、そんな石川氏のデビュー作
『この地球(ほし)を受け継ぐ者へ―地球縦断プロジェクトP2P」全記録』である。
「P2P」に参加した石川氏は、その旅の過程を日記に綴り続けた。国境を越えた8人の個性豊かな男女が一つ屋根の下・・・ときにテントの下で長い時間を過ごしたのだから、当然そこには衝突があり、友情が芽生え、ときに甘酸っぱいやりとりが交わされる。
旅が進むにつれ石川青年が成長していく様子は微笑ましくもあり、23歳という年齢で「P2P」という一大プロジェクトに参加できたその経験が羨ましくもある。
沢木耕太郎著『深夜特急』を初めて読んだときに感じた焦燥感を、私に思い起こさせるのだ。ほんとうに、このままの自分でいいのか、と。
残念ながら現在、この作品は新刊書店ではなかなか入手しづらい。しかし石川氏の他の著作に触れると、この「P2P」での経験が根底に流れているのを感じる時がある。もし「石川直樹」に興味が湧いたなら、ぜひ手に入れてみてほしい一冊だ。
紀伊國屋書店 前橋店
平野高丸
『この地球(ほし)を受け継ぐ者へ
―地球縦断プロジェクト「P2P」全記録 』
著者:石川直樹
出版社:講談社
ISBN: 4062566370
青春期には太宰治やカフカなどに入れあげたような文学少年や文学少女ですら、
年をとるにつれ、フィクションが読めなくなる人が多いらしい。ファンタジーな
んて全然受け付けない。分かる気がする。フィクションを読むのは自分の感受性
と対峙する行為だから、忘我とか共感とか感情をもっていかれる覚悟とか、精神
的な体力がいる。忙しい大人の世界で仕事に体力、精力を吸い取れながらフィク
ションを読むのがしんどくなるのだろうと思う。
フィクションを読まれる年配の方に非常に多いのは、歴史人情小説や推理小説
を中心に読書する方。これらは純粋にエンターテイメントとしてある程度型の決
まった安心感の中で読めるから読んでいて楽(まさしく娯楽)なんだろうと思う。
だから私は、先を見据えて、今はそれらを極力避けている。藤沢周平も山本周五
郎もエラリークイーンも東野圭吾もきっと面白いに違いないけれど、先の楽しみ
にとっておく。まだまだ私は脳をびしばし刺激する一筋縄ではいかない小説にた
くさん出会っていたい。
さて、最近、娯楽を求めた本ばかり読んでいるな、という方にオススメの1冊。
私が「アライバル」という文字のない絵本に出会ったのは東北大震災後の4月。
たくさんの書評が出て、我が店の店頭に平積みされていた。帯文の「本読みの達
人が選ぶ3.11後に読む本」「どんなことばより雄弁な希望」という文に惹かれて
購入した。
帯文のとおり、美しくて、不思議で、希望に満ちた本。
そして大人こそ読むべき絵本。
あらすじは、不吉なことが起きた町で暮らす家族の父が新天地を求めて旅立つ。
言葉も通じず、食べるものも文化も違う不思議な国で時につらい思いをしながら
も、彼は次第に人々と心を通わせ、居場所を見つける。そして、妻と子を呼び寄せ、
本当の笑顔で笑える生活を、新しい土地でもう一度築く、というもの。
あらすじを紹介するのさえ、不安になる。ことばがない本だから、もしかしたらあらすじさえも人によって解釈が異なるのかもしれない。読む時の環境によっても違う思いを抱くかもしれない。実際、私は「これは大人のファンタジーだな」と思ったり、居場所を求める家族の苦難の物語だと思って読んだり、登場人物たちそれぞれが背負っている人生の重みを実感する群像劇として捉えてみたりした。
未読の方は是非、1ページでも開いてみてほしい。何を感じるか、自分の感情の動きを面白いと思うはず。美しい絵を眺めながら、物語に自分でことばをつけてい
くような読書だから、読むたびに違う刺激に出会える。人はどんな場所でも生きていける、という勇気をもらえる本でもある。
心を震わす読書、宝物のような1冊です。
有隣堂新百合ヶ丘エルミロード店
門脇 順子
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「アライバル」
河出書房新社 本体2500円+税 著:ショーン・タン
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ジュンク堂書店神戸住吉店
大谷 明日香宮本輝は、どの作品もおすすめできる希な作家だと思います。
今まで読んだ作品をざっと挙げても、『泥の河』『蛍川』『青が散る』『春の夢』『骸骨ビルの庭』『三千枚の金貨』『約束の冬』『星々の悲しみ』『五千回の生死』、エッセーでも『命の器』『二十歳の火影』などなど。
まだ私の本棚には彼の作品がありますが、どれも外れない。
がっかりさせない。
作家と読者との相性ももちろんあるでしょう。
万人が感動する作品など存在しない。
でも、私にはぴったりと合う。
芥川賞選考委員の選評も宮本輝のみを参考にしています。
で、その中でも今回紹介したいのは『三十光年の星たち』。
東日本大震災以降に読んで、最も感動した小説です。
主人公は三十歳の青年。仕事も愛する人も失い、借金だけを抱えている。
彼は自暴自棄になりながら、金を貸してくれた佐伯老人の命令を拒否できず、言われるままに助手として働くことになる。
貸した金を返してもらう旅に出る。
この始まりから、次々と出会いと学びと実践が生まれていく。
自然に流れていく物語は、青年の面の皮を何枚も剥がし、心の中心に忘れてはならない真実を打ち込んでいく。
人生の先輩から後輩への言葉がいちいち深い。
読者であるはずの私は、いつの間にか小説中の青年に成り代わり、己に刻みつけようと何か所も線を引いていました。
最も感動した箇所を引用してみます。
「この坪木仁志というまだ三十歳の青年は、心がとてもきれいなのだ。人の痛みを我が痛みとできる心を持っている。だが、その心を生涯持ちつづけるのは至難の業だ。前にも言ったが、人の心ほど移ろいやすいものはない。
三十歳のきみのきれいな心が、三十年後にどう汚れているか、誰にもわからない。人を見る尺度は三十年だと、ある人がぼくに言った。いまぼくは、その人の言葉の意味の深さがわかる。
無論、人生には何が起こるかわからない。
二歳で死ぬ人もいる。三十歳で死ぬ人もいる。百歳まで生きる人もいる。
死に方も千差万別だ。不慮の事故に巻き込まれる場合もある。重い病気にかかる場合もある。避けられない天災に遭う場合もある。
しかし、そんなことは恐れるな。三十年後の自分を見せてやると決めろ。きみのいまのきれいな心を三十年間磨きつづけろ。
働いて働いて働き抜け。叱られて叱られて叱られつづけろ」 (上巻292ページ5行目から17行目)
避けられない天災によって多くの人たちが死んでいった。呆然とし混乱し不安に駆られ今までの自分の歩みを見失っていたとき、必要に突き動かされて読んだのがこの本でした。「三十年後の自分を見せろ。働いて働いて働き抜け」 どれだけ支えられたかわかりません。
その時の思いを、今も持ちつづけているか? きれいな心を、磨きつづけているか? 『三十光年の星たち』を本棚に見るたびに、自分に問いかけています。
リブロ池袋本店 菊田 和弘
書名 『三十光年の星たち 上・下』
ISBN 上・9784620107677
下・9784620107684
本体価格 各1500円
今回私がおススメするのは、百田直樹さんの新刊「海賊とよばれた男」講談社刊です。
百田直樹さんといえば、関西ローカルで高視聴率を稼ぎだしている大人気TV番組「探偵ナイトスクープ」の創設以来の超売れっ子構成作家であり、また毎回いろいろなジャンルの本を執筆されていている異色の作家さんでもあります。そんな彼の作品も中で私の好きな本は「永遠の0」と「影法師」で、どちらも文庫化されロングセラーになっています。
今回の「海賊とよばれた男」はこれらの本に通ずるところがあり、日本人としての生き方や世界の中での戦い方、日本人としての誇りの持ち方などを物語を通して語りかけてくれます。この物語のモデルになったのは、出光興産の創業者である出光佐三氏で、日本がなぜ大東亜戦争に突入しなければならなかったのか、その中でどのように戦い、どのように政局が動いたのかも詳しく描写されていて、戦争を知らない世代にも時代背景をわかりやすく解説してくれています。自分の信じるものを貫いて、自己の利益や保身よりも日本にとってどう動けばよいのか、どう生きていけばよいのか、今を生きている日本人に欠けている何かを教えてくれる一冊だと思います。すべての日本人に読んでもらいたい最高の一冊だと自信をもっておススメしたいと思います。
宮脇書店大阪柏原店
代表取締役 萩原浩司
書名:「海賊とよばれた男」 上・下刊
著者:百田 尚樹
出版社:講談社
ISBN:978-4062175647
本体価格:各1680円
大垣書店 ヨドバシ京都店
伊藤義浩
書名:傑作!広告コピー516
編者:メガミックス
出版社:文藝春秋
ISBN:978-4167801748
本体価格:750円