単品ごとの売れ行きや
これからの手当てを考えるには、
スリップの数字が有効ですが、
より広い視野での関係性、
より長い射程での経緯を捉えるには
POSデータが便利です。
ときには棚前から離れて
データを俯瞰することで、
日々の判断を客観的に
検証することができます。
POSデータのリストを
様々な条件で抽出するときや
目を通すときは、
漠然とデータを前にするよりも
・「自分が見落としている売れ筋」
・「売れる兆し」
・「他の担当者の判断の痕跡」
・「売れが止まっている証拠」
といったテーマを意識するようにしています。
毎日チェックするリストは、
・オールジャンル
・日別
・チェーン全店
・上位100点
という抽出条件です。
自店に配本が3冊、
棚前に置いて即日1冊が売れた
といった場合に、
それがどういう意味を持つ1売れなのか
判断がつきずらい場合に、
全店を見回してみます。
あちこちで1売れが上がっているのに
版元在庫が少ないなら、
取り合いは必至ですから
すぐに手配が必要です。
自分が目をつけていた新刊が
自店だけで思った通り
素早く兆しを見せたなら、
抜け駆けして売り伸ばすチャンスです。
他店に気付かれる前に
取次在庫を押さえてしまうのも手です。
自分の見落としている売れ筋を探すときに
よく使う抽出条件は、
・ジャンル別
・直近3カ月
・チェーン全店
・上位500点
です。
条件の設定はシステムごとに
事情が異なりますが、
期間や点数、比較対象店舗など、
いろいろ試してみてください。
あゆみBOOKSで見ていたリストには、
縦軸に書目が全店合計売れ数順に並び、
横軸にはチェーンの全13店舗が
設定した順に並びます。
店舗ごとに、
・入荷
・返品
・売れ
・在庫
の4つの数字が並びます。
ビジネスジャンルのベスト500
を例に見てみましょう。
このあたりは、どこの店でも
当然売れるべきものがほとんどです。
ほとんどが新刊か、
発売から継続的に売れているものです。
既刊が再燃して売れている場合は、
世間一般に共通する理由があるもの
がほとんどです。
さらに在庫の数字を縦に目で追ったとき、
どこもそれぞれの売り場規模に比して
十分な数字が並んでおり、
返品の数字はゼロか
小さな数字が多いはずです。
この階層で自店の在庫数をチェックしたとき、
ゼロや明らかに凹んだ小さな数字があれば、
即座に手配しなければいけません。
常識的に売るべきものを取りこぼしていた
ということになります。
ひとまずの注文数を判断するときに、
現物を見たことがない書籍なら、
書誌情報と各店舗の判断を
すり合わせて考えます。
他店の担当者の判断は、
入荷と返品の数字に表れます。
多くの担当者がほとんど返品せずに
在庫を持っているのなら、
ひとまずそれに倣って注文してしまいます。
多くの担当者が一度は大きく仕入れて
売れもついていたのに、
今ではそのほとんどを返品してしまっている、
しかしある店は返すことなく
今も売り伸ばしている、ということもあります。
結果としての売れ数よりも、
入荷と返品に表れる判断の過程に注目します。
その返品が早まったものだったのか、
妥当な判断だったのか、
自店の環境に落とし込むなら
何冊の発注判断にするのかと考えます。
リストの中位~下位を掘るときに重要なのは、
ある店舗や担当者だけが密かに成功している
書目がないか、という視点です。
200~300位の階層になると、
ほとんどの店では売れ0で
在庫も棚1か0という中に、
ある店だけは売れ7、在庫3
といったものが出てきます。
こういった中位に埋没しているものには
既刊のロングセラーが多く、
各店舗の個性や担当者の意図が現れていて、
とても面白いものです。
一つ一つの書目を詳しく確認すると、
実は他店では累計200冊は売り続けているのに
自分はちっとも気づいていなかったということも
しばしばあります。
こういった他店のロングセラーを売る場合は、
売り方も含めて真似ることも大切です。
POPやパネルはもちろん、
置き場所や周りの間引きかたも参考にします。
月に一度はこのリストから
掘り出す作業を継続していると、
他店の得意分野や担当者の判断パターンを
想像して先取りすることもできます。
つまり、全店POSデータを掘る作業には、
たんに売れそうな情報集めをするのとは別に、
他人のアンテナの張りかたを学ぶという意味
があります。
このように他店から売れ筋を
たくさん移植しようとすると、
平台に置ききれなくなって悩むことになります。
そこで、3ヶ月に1度は平台と棚を
すべてデータで検証して、
売れていないものを洗い出します。
平積みのスリップからは
単品ごとの経緯は確認しやすいのですが、
ジャンル全体の販売冊数が
だんだんと下がっていることや、
平台に販売目標に届かない平積みが
いくつあるのかをまとめて把握するには
POSデータが便利です。
例えば、
・ビジネスジャンル
・直近2カ月
・売れ数0~3冊
・在庫2~10冊
といった条件で抽出した上で、
発売日か入荷日順に並べて
直近1カ月のものを除外してみます。
そうすると、
「2カ月も積みっぱなしなのに、
たった3冊でさえも売れていないもの」
が何十タイトルと見つかります。
理屈の上では、
これらをすべて返品しても
売上はほとんど下がらないはずです。
しかし、実際にごっそり返品しようとすると、
様々な理由でそうできないことに気づきます。
返す決断のできない多くのものは、
自分の品揃えのこだわりから
動かせなくなっているのです。
このとき、
自分が何にこだわっているのか
を問い直すことが、
売れと面白さを両立させた平台作りの
大切なプロセスです。
まず、自分のこだわりが伝わっているのか、
伝わっていたとして、
お客さんの志向に合っているのか。
売れていないまま積んでいるこの単品が
どうしても外せないなら、
その周囲がそれを補う売上を得る関係性
になっているか。
ただまとまりにこだわっているだけなら、
核になる書籍も、よく探せば
もっと売れるものに取り替え可能ではないか。
深く考えて並べた平台は、
どうしても愛着が出てしまい、
自分で壊して乗り越えることが難しくなってきます。
データで「売れていない」という事実を明らかにして、
次の手を考え出す作業を継続的にやることが重要です。