10月に『日本一カンタンな人の動かし方』(かんべみのり著)が発売されました。
本書は書店員を中心とした有志約10名が、明日香出版社とともに企画から著者の選定、編集のすべての工程で意思決定をおこなった業界内でも過去に例のない一冊です。
2015年の秋、「書店員が企画する意義はどこにあるのか」という議論からスタートしました。
多くの人が抱える悩みと、(書店員である)自分たちとが共通して抱える課題を解決することが「書店員らしい企画」であると考えました。
そしてそれは「いかに人に動いてもらうか」ということでした(※)。
言うまでもなく、仕事を前に進めていくには、上司や部下、同僚はもちろん、お客様や取引会社など、さまざまな関係者との「コミュニケーション」が必要です。
上手な「伝え方」ができるかどうかで、仕事上の人間関係は、スムーズに運ぶか、こじれてしまうか、大きく左右されることになります。
※ 書店では本社と店舗の考えのズレや、人員削減による煩雑な業務、お客様対応に追われる中で、意図したとおりにスタッフさんやチェーン本部に
動いてもらえるかどうかが、仕事をスムーズにおこなう鍵となります。
本書の著者は、日本で唯一のMBAホルダーで漫画家のかんべみのり氏です。
MBA流の「交渉学」を下敷きにしながら、人にいかに気持ちよく動いてもらうかをわかりやすいマンガとともに解説。
会社員時代、アルバイトさんへの指示だしやプロジェクトの管理などで、思い通りにいかなかった経験を乗り越えたかんべ氏ならではの共感できる解説と、書店現場を舞台にした漫画で、「わかる」ことはもちろん、「できる」ようになるよう構成されているのが特徴です。
<内容>
仕事を前に進めるうえで大きなボトルネックになっているのは、どの職場でも「人」でしょう。
本書では、上司も部下もいて、板挟みの環境下にいる30代から40代の中堅社員を対象に、
気持ちよく仕事ができる方法を解説します。
<目次>
第1章 上司を動かす
第2章 同僚を動かす
第3章 部下を動かす
第4章 人を動かす会議
第5章 人を動かす資料作成術
第6章 怒りと付き合う
第7章 プライベート
<著者プロフィール>
かんべみのり
MBA漫画家
神戸大学法学部卒業 / 英国Edinburgh's Telford College Illustration with Design HNCコース修了
グロービス経営大学院経営研究科卒業・経営学修士
フリーター経験後、渡英。帰国後より、会社員として勤務する傍らイラストレーター業を続ける。
グロービス経営大学院在学中よりMBAの学びをイラスト図解化に取り組み、好評を博す。
妊娠・出産を機に日本で唯一のMBAマンガ家として執筆業をメインに活動中。
著書
『マンガ 日本最大のビジネススクールで教えているMBAの超基本』(東洋経済新報社)
『マンガでわかる! 入社1年目からのロジカルシンキングの基本』(SBクリエイティブ)
<監修者プロフィール>
小早川優子(こばやかわ・ゆうこ)
交渉トレーナー
株式会社ワークシフト研究所 代表取締役社長
育児休業期間をマネジメント能力開発の機会にする「育休プチMBA勉強会」副代表
慶応義塾大学ビジネス・スクール ケースメソッド授業法研究普及室 認定インストラクター
慶応義塾大学大学院経営管理研究科経営学修士/米国コロンビアビジネススクール留学(MBA)
外資系金融機関に通算13年間勤務。第二子出産後、コンサルタント、セミナー講師として独立。
専門はダイバーシティ・マネジメント、交渉及び女性管理職育成。これまで上場企業、中小企業、
ベンチャー企業、省庁や地方自治体などで多数登壇。
日経DUALにて「ママのためのハッピー交渉トレーニング」を連載。3児の母。
<定価>1400円(税別)
<判型・ページ>B6並製・216ページ
<ISBN>978-4-7569-1861-1
<発売日>2016年10月14日
単品ごとの売れ行きや
これからの手当てを考えるには、
スリップの数字が有効ですが、
より広い視野での関係性、
より長い射程での経緯を捉えるには
POSデータが便利です。
ときには棚前から離れて
データを俯瞰することで、
日々の判断を客観的に
検証することができます。
POSデータのリストを
様々な条件で抽出するときや
目を通すときは、
漠然とデータを前にするよりも
・「自分が見落としている売れ筋」
・「売れる兆し」
・「他の担当者の判断の痕跡」
・「売れが止まっている証拠」
といったテーマを意識するようにしています。
毎日チェックするリストは、
・オールジャンル
・日別
・チェーン全店
・上位100点
という抽出条件です。
自店に配本が3冊、
棚前に置いて即日1冊が売れた
といった場合に、
それがどういう意味を持つ1売れなのか
判断がつきずらい場合に、
全店を見回してみます。
あちこちで1売れが上がっているのに
版元在庫が少ないなら、
取り合いは必至ですから
すぐに手配が必要です。
自分が目をつけていた新刊が
自店だけで思った通り
素早く兆しを見せたなら、
抜け駆けして売り伸ばすチャンスです。
他店に気付かれる前に
取次在庫を押さえてしまうのも手です。
自分の見落としている売れ筋を探すときに
よく使う抽出条件は、
・ジャンル別
・直近3カ月
・チェーン全店
・上位500点
です。
条件の設定はシステムごとに
事情が異なりますが、
期間や点数、比較対象店舗など、
いろいろ試してみてください。
あゆみBOOKSで見ていたリストには、
縦軸に書目が全店合計売れ数順に並び、
横軸にはチェーンの全13店舗が
設定した順に並びます。
店舗ごとに、
・入荷
・返品
・売れ
・在庫
の4つの数字が並びます。
ビジネスジャンルのベスト500
を例に見てみましょう。
このあたりは、どこの店でも
当然売れるべきものがほとんどです。
ほとんどが新刊か、
発売から継続的に売れているものです。
既刊が再燃して売れている場合は、
世間一般に共通する理由があるもの
がほとんどです。
さらに在庫の数字を縦に目で追ったとき、
どこもそれぞれの売り場規模に比して
十分な数字が並んでおり、
返品の数字はゼロか
小さな数字が多いはずです。
この階層で自店の在庫数をチェックしたとき、
ゼロや明らかに凹んだ小さな数字があれば、
即座に手配しなければいけません。
常識的に売るべきものを取りこぼしていた
ということになります。
ひとまずの注文数を判断するときに、
現物を見たことがない書籍なら、
書誌情報と各店舗の判断を
すり合わせて考えます。
他店の担当者の判断は、
入荷と返品の数字に表れます。
多くの担当者がほとんど返品せずに
在庫を持っているのなら、
ひとまずそれに倣って注文してしまいます。
多くの担当者が一度は大きく仕入れて
売れもついていたのに、
今ではそのほとんどを返品してしまっている、
しかしある店は返すことなく
今も売り伸ばしている、ということもあります。
結果としての売れ数よりも、
入荷と返品に表れる判断の過程に注目します。
その返品が早まったものだったのか、
妥当な判断だったのか、
自店の環境に落とし込むなら
何冊の発注判断にするのかと考えます。
リストの中位~下位を掘るときに重要なのは、
ある店舗や担当者だけが密かに成功している
書目がないか、という視点です。
200~300位の階層になると、
ほとんどの店では売れ0で
在庫も棚1か0という中に、
ある店だけは売れ7、在庫3
といったものが出てきます。
こういった中位に埋没しているものには
既刊のロングセラーが多く、
各店舗の個性や担当者の意図が現れていて、
とても面白いものです。
一つ一つの書目を詳しく確認すると、
実は他店では累計200冊は売り続けているのに
自分はちっとも気づいていなかったということも
しばしばあります。
こういった他店のロングセラーを売る場合は、
売り方も含めて真似ることも大切です。
POPやパネルはもちろん、
置き場所や周りの間引きかたも参考にします。
月に一度はこのリストから
掘り出す作業を継続していると、
他店の得意分野や担当者の判断パターンを
想像して先取りすることもできます。
つまり、全店POSデータを掘る作業には、
たんに売れそうな情報集めをするのとは別に、
他人のアンテナの張りかたを学ぶという意味
があります。
このように他店から売れ筋を
たくさん移植しようとすると、
平台に置ききれなくなって悩むことになります。
そこで、3ヶ月に1度は平台と棚を
すべてデータで検証して、
売れていないものを洗い出します。
平積みのスリップからは
単品ごとの経緯は確認しやすいのですが、
ジャンル全体の販売冊数が
だんだんと下がっていることや、
平台に販売目標に届かない平積みが
いくつあるのかをまとめて把握するには
POSデータが便利です。
例えば、
・ビジネスジャンル
・直近2カ月
・売れ数0~3冊
・在庫2~10冊
といった条件で抽出した上で、
発売日か入荷日順に並べて
直近1カ月のものを除外してみます。
そうすると、
「2カ月も積みっぱなしなのに、
たった3冊でさえも売れていないもの」
が何十タイトルと見つかります。
理屈の上では、
これらをすべて返品しても
売上はほとんど下がらないはずです。
しかし、実際にごっそり返品しようとすると、
様々な理由でそうできないことに気づきます。
返す決断のできない多くのものは、
自分の品揃えのこだわりから
動かせなくなっているのです。
このとき、
自分が何にこだわっているのか
を問い直すことが、
売れと面白さを両立させた平台作りの
大切なプロセスです。
まず、自分のこだわりが伝わっているのか、
伝わっていたとして、
お客さんの志向に合っているのか。
売れていないまま積んでいるこの単品が
どうしても外せないなら、
その周囲がそれを補う売上を得る関係性
になっているか。
ただまとまりにこだわっているだけなら、
核になる書籍も、よく探せば
もっと売れるものに取り替え可能ではないか。
深く考えて並べた平台は、
どうしても愛着が出てしまい、
自分で壊して乗り越えることが難しくなってきます。
データで「売れていない」という事実を明らかにして、
次の手を考え出す作業を継続的にやることが重要です。