荷捌き作業はお店のスタッフが
チームとして連動するために
勉強できる絶好のチャンスです。
全ジャンルの売上スリップを全員で回覧することと、
この荷捌きの二つの作業を繰り返すことで、
それぞれが担当しているジャンルに関係なく、
おおよそ本屋で扱っているものすべてが
どう循環しているか、日常の肌感覚として
身につけるトレーニングができるのです。
大切なのは、
「作業を手早くやっつけるコツ」をつかむこと
ではありません。
「売れる順に対応する」ことと、
「次からは注文冊数の精度を上げる」という
「判断力」をつけることです。
誰が荷物を仕分けしたとしても、
ジャンルの担当者が棚や平台にはめ込む
直前まで持っていっておく、
あるいは担当者がお休みでも
サッと仮に積んでしまえることが理想です。
この連載では、僕の前職である
あゆみBOOKS小石川店(日販帳合)を
モデルにしてお話していきます。
他の販売会社から仕入れている皆さんは、
うまく読み替えてみてください。
箱にはバンドの色ごとに種類があります。
ピンク色は「PB」で文庫、新書、コミック、コミック文庫
といったペーパー・バックが入っています。
売れたスリップをハンディ・ターミナルで発注したか、
自動発注で回転しているもの、
NOCSなどのウェブ・サイトで発注したもの、
出版社から日販へ電注をデータ化して送信されたもの
などです。
紫色は「MS2」(マルチ・スーパー2の略)で、
同じようにデータで受注された書籍単行本やムック
が入っています。
黄色は「注文口」でBCSという機械や人の手を介して
仕分けられて届きます。
青色は「新刊」などと呼んでいます。
これらの箱の中に1冊で入っているものは、
ほとんどが棚から売れて戻ってきたものです。
お店の基礎代謝ともいうべきこういった棚売れの流れを、
毎日の作業でよく見ておきましょう。
スリップで見かけてから数日のうちに着荷したものは
定番品なのだろうと想像できます。
あゆみBOOKSでは、
「必備スリップ」というものを活用していました。
出版社のつけるスリップ以外に、
日販でプリントしてもらった電算スリップを
書籍に挟むのです。
これには、最後に発注した日付と
これまでに売れて再発注した回数が印字
されています。
プリントアウトした束のまま、
MS2の箱に同梱されている
この必備スリップを、検品しながら該当する
書籍に挟み込んでいきます。
棚で回している書籍には、
ほぼ全てこのスリップをつけています。
ただでさえ面倒な検品作業に、
さらに手間のかかる工程を増やすなんて
と思うかもしれません。
しかし、棚挿しの1冊1冊に
こうやって情報を仕込むことは、とても重要です。
必備スリップがまだ付いていない書籍にも、
手書きで日付などを書きます。
あとで僕たちが棚の前に立ったとき、
少しでも正しく返品を抜き出す、
あるいは棚挿しの既刊を面陳に格上げしようかと
考える根拠になるのです。
一連の品出し作業の中で最も時間がかかり、
精神的にもストレスがかかるのは、
「何を外すか」を悩むことです。
誠実に仕事をしようとすると、必ずぶつかる問題です。
素材を仕入れた最初の工程でしっかりと仕込みをすることで、
あとの流れをスムーズにすることができるのです。
必備スリップを挟む動作の流れで、よく奥付をチェックします。
自店での回転数に対してその書籍は何刷りしているのか
を考えます。そうすることで、
ロング・セラーに対する勘のようなものが身につくのです。
土地柄に関係なく広範に売れそうな王道の定番書なら、
自店の回転数と重版回数は正比例の関係になりやすい。
初版から最近の日付までがある程度長く、何刷りもしている
のなら世間的にも安定して売れ続けているのですから、
棚挿しで回すのではなく面陳か平積みに今すぐ格上げする
べきかもしれません。
逆に初版から短期間で何刷もしていても、
最近の日付が古ければ瞬間風速的な売れ方で
役目を終えているのかもしれません。
「いかにも自店の特徴的な売れ方」という高回転書籍には、
もう何年も経つのに2刷りもしていないものもあります。
そんな本に出会ったら、小口の天(書籍の上部断面のことです)
を指で撫でてみます。
書籍のこの部分は再出荷のたびに機械で削られますので
触れるとザラついており、何度も削られた書籍は
カバーのサイズより本体がずいぶん小さくなっています。
そうなると、
版元在庫切れが迫っているのかもと不安になります。
すぐにNOCSで在庫情報を調べたり、電話で確認したり、
ひょっとしたら在庫を確保して仕掛けるのもいいかもしれません。
黄色の注文口の箱には、データ化されずに日販へ持ち込まれた
注文品が入っています。出版社の営業さんに番線印を押して
注文用紙や短冊で手渡したもの、FAXや電話で注文したもの、
新刊の追加や、新刊配本のないものの初入荷など、
書籍の主要ジャンルの売れ筋が多く入っている箱です。
また、日販とオンラインでリアルタイム・データのやり取りを
していない中小出版社の補充品もここに入っています。
新刊箱の次くらいに、面白い発見が多くあります。
新刊の箱を開けて
その日の出物を一番に見つける楽しさは、
仕事のご褒美とも言えるものだと、
皆さんも思うのではないでしょうか。
ワクワク感もありますが、このときの第一印象で、
適切な置き場所や追加注文をどうするかを決める
集中力が必要です。
ここで日頃の荷捌きと売上スリップのチェックで培った
勘が発揮されます。
新刊のチェックは、
出社している棚担当スタッフ全員でやります。
どのスタッフも新刊の問い合わせに対応できるようにという
商品知識のためだけではなく、
近い将来に担当を交代するときの準備でもあり、
新刊のトレンドを各自の担当ジャンルで表現するためのヒント
でもあります。
ちょっとした会話から、同僚から教えられることも多く、
お互いの隠れた得意分野を発見し合うこともよくあります。
毎日の新刊の追加対応や、既刊との組み合わせで
平台をどう作るかといった判断を先送りにすると、
売り場はすぐに陳腐なものになり、売る機会を逃します。
荷捌きから品出し完了までの作業時間を短くするには、
一つ一つの判断に悩む時間を短くするか、
入荷量を減らすしかありません。
荷捌きは勉強の時間と割り切って丁寧に行うことが、
一見すると遠回りに思えますが、
その後の仕事を早く片付ける近道なのです。
次回は、
売上スリップの束を読み解くことについて、
一緒に考えていきましょう。
◆久禮・亮太 (くれ・りょうた)
1975生まれ。高知県出身。元あゆみBOOKS店長。
現在はフリーランスの書店員「久禮書店」の店主として、
ブックカフェの運営や新刊書店の棚作り、スタッフ研修
に携わっている。
月・水・金曜は4歳の娘と一緒に家族の仕事を、
火・木・土曜は外で書店の仕事をこなす毎日。
◆本連載は、書店向けDM誌 『明日香かわら版』 の
記事をもとに再構成したものです。
毎月末の更新で、全10回の予定です。
・第1回 「ごあいさつ」 ⇒ http://www.asuka-g.co.jp/event/1603/007768.html