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 [313]猫のこと、漱石のこと、子規のこと
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[313]猫のこと、漱石のこと、子規のこと

 最近、漱石の話題をよく耳にするようになりました。

 なんでも今年は漱石の没後100年を迎えるそうです。(朝日新聞・特集 『夏目漱石「吾輩は猫である」』より)

 テレビドラマあり、新聞では「吾輩は猫である」の連載やキャンペーンありと実に賑やかです。しかも来年は、なんと生誕150年(※1)

 生まれても亡くなっても、話題に事欠かない実にありがたい文豪です。

 筆者が「吾輩は猫である」を初めて読んだのは中学一年生の時でした。教科書の「坊っちゃん」で漱石を知り、同じような面白さを期待して読み始めたは良いものの、「猫」の何がおもしろいのかさっぱりわかりませんでした。しかも現代語訳の子供向け抄訳でしたから、人の話を理解するめずらしい猫だなぁと思うまもなく、あっというまに酔っ払って死んでしまったのです。

 ところが、高校生になって『漱石全集(※2)』に収録された原文で読んだところ、「猫」の面白さがその軽妙洒脱な文体にあることにようやく気が付いたのです。
 小さい頃に「猫」を読んで退屈と感じた方は、ぜひ漱石が書いた当時の原文で一読されることをおすすめします。

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 さて、いまや大文豪の名をほしいままにする漱石ですが、正岡子規の著作(※3)に漱石の意外な一面が描かれています。

 子規は若い頃の雑文の中で、友人達を細かく分類していますが、漱石をただひとり「畏友」(「筆まかせ」明治22年 『子規全集 第9巻』収録)と称するほど、夏目金之助(漱石の本名)を尊敬しており、親交も深かったようです。

 また、漱石の俳句も高く評価もしています。
 「我俳句仲間に於いて俳句に滑稽趣味を発揮して成功したる者は漱石なり。漱石最もまじめの性質にて学校にありて生徒を率いるにも厳格を主として不規律に流るるを許さず。(中略)之を思ふに眞の滑稽は眞面目なる人にして始めて為し能ふ者にやあるべき」(「墨汁一滴」・1月31日」より ※4)

 そんな漱石と子規の関係ですが、あるとき、二人が連れ立って都内の早稲田付近を歩いていたときのこと。事件が起こります。
 「余が漱石と共に高等中学に居た頃漱石の内をおとづれた。漱石の内は牛込の喜久井町で田甫(たんぼ)からは一丁か二丁しかへだたっていない處である。漱石は子供の時からそこに成長したのだ。余は漱石と二人田甫を散歩して早稲田から關口の方へいたが大方六月頃のことであつたらう、そこらの水田に植えられたばかりの苗がそよいで居るのは誠に善い心持であつた。此時余が驚いた事は、漱石は、我々が平生喰ふ所の米は此苗の實(み)である事を知らなかつたといふ事である。」(「墨汁一滴・5月30日」より)

 原文では筍(たけのこ)が竹になることを知らなかった四十女から始まり、しまいには「都の人が一疋の人間にならうと云ふのはどうしても一度は鄙(ひな)住居をせねばならぬ」と締めくくっています。

 四国・松山に育った子規から見ると、漱石は江戸生まれ、東京育ちの都会っ子ですから、何でも知っているやつと心の中では恐れがあったかもしれません。ところが、その漱石は高等中学(のちの旧制の第一高等学校)に通う秀才にもかかわらず、毎日食べているご飯がどうやってできているかを知らなかったのです。

 英国留学まで果たした漱石にもこんな常識外れもあるんだよと茶化してみせる子規ですが、このとき明治34年(1901年)、子規はすでに病床にありました。
 その死まで一年あまり。子規は冴えわたる筆で、若き日の漱石を懐かしく写生してみせたのです。

一方、漱石はと言えば、英国留学中(1900~1903年)に神経衰弱に陥って下宿に引きこもっていたのです。
 子規が書き送った「モシ書ケルナラ僕ノ目ノ明イテイル内ニ今一便ヨコシテクレヌカ」(明治34年11月6日の手紙)にも遂に返事を書くことはありませんでした。(※5)

 子規が見抜いていた漱石の「滑稽趣味」がようやく発揮されるのは、子規の死から3年後の明治38年(1905年)、雑誌『ホトトギス』に連載を開始した「吾輩は猫である」によってでした。

 作中に繰り広げられる果てしのない会話は、生前の子規と交わしたものだったのかもしれません。だとすると、「吾輩は猫である」を一番読んで欲しかった人は、子規その人だったのではないでしょうか。(水)

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■参考文献・リンク
※1  岩波書店 漱石プロジェクト @IwanamiSoseki
※2 漱石全集・赤い表紙だったと思うので『岩波書店 漱石全集』のようです。
※3 『子規全集』(全22巻/別巻3巻・講談社) ( )内のルビはすべて筆者追加
※4 「墨汁一滴」(明治34年1月16日~7月2日まで新聞『日本』連載)
※5 「東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ」より

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