約70年前に戦われた第二次世界大戦、日本側からみると大東亜戦争とも太平洋戦争とも言われています。 この戦争が起きた原因は、軍部が日本の政治を牛耳ったから、日独伊三国同盟を結んだから、資源を絶たれた日本に残された唯一の方法だったから、とさまざまに言われています。 言い尽くされた観のある戦争原因ですが、ある書の出版により新たな視点が加わりました。 「日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか」(岩瀬 昇・著 文春新書)2016年1月20日刊 この本によると、日本は資源、特に石油に関しては決して「持たざる国」ではなかったと言い切っています。昔も今も日本は石油のほとんどは輸入に頼る資源のない国と、社会科や歴史で習ってきたのに、どういうことでしょうか。 要約して言うと、日本は石油資源をうまく見つけることができず、見つけても活用することができなかった。つまり石油開発の基礎技術が不足していたため、目の前の大油田をみすみす取り逃がしていた、ということです。 著者が挙げる一例が、サハリン島・北樺太石油の利権交渉の失敗。1925年、日本は建国したばかりのソビエト連邦と日ソ基本条約を結び、北樺太の石油利権を合法的に取得します。一時は年間石油消費量の5%をまなかっていました。ところが1944年の戦争中に、これをわずか400万円でソ連に譲渡してしまいます。 日本が手放した権益は、著者の見積もりでは、当時でも1億5千万円の価値はくだらないと評価しています。ちなみにソ連は生産した原油で日本に機材費を支払う契約をして、日本の機材で立派な石油生産設備を完成させています。こうしてソ連は元手ゼロ円で、打ち出の小槌を手中に収めたのです。 サハリン油田は今も、原油・天然ガスを産出しています。90年後の今も続く石油資源を、資源の乏しい戦争中になぜ日本が手放したのか、いまも謎です。 つぎに著者が挙げるのが、満州国での資源開発の失敗。満州、現在の中国東北部はいまや、いくつもの油田を抱える一大油田地帯となっています。明治時代から油田がある証拠をつかんでいながら、日本はひとつも掘り当てることができませんでした。 おそらく、アメリカやイギリスなどの先進的な採掘技術を導入すれば、見つけることは可能だった、と著者は厳しく指摘しています。 ※イメージ合成写真・パレンバン付近に降下する兵。 最後に石油資源を求めて、南進、つまり東南アジアの油田を押さえに行った日本軍でしたが、ここでも大きな過ちを犯しています。日本に原油を運搬するタンカーの護衛を日本海軍はほとんど行っていませんでした。その理由は海軍は米軍との戦闘に専念するため。 大本営ではタンカーの損失率を10%と計算していたはずが、1944年にはほとんどのタンカーを失い、川にまであふれる原油を日本に運ぶ方法がありませんでした。 アメリカは1940年、ドイツとの戦争に入ったイギリスなどを支援するために、武器貸与法(レンドリース法)を、議会で一年近く論戦を繰り広げてようやく成立させています。当時の論争を読むと「軍需物資を満載した貨物船を米軍が守ることの是非」を激しく論じ合っています。貨物船を守る米軍は、結局ドイツ軍と戦わざるを得ない。それは米国がヨーロッパ戦争に引きずり込まれることになる。だから武器貸与法に反対、という正論でした。これに対する当時のルーズベルト大統領は、「あなたたちの息子を異国の戦争に送り出すことはしない」と言って再選していましたから、この法律を通すために大変苦労したようです。(『ルーズベルトの責任 「日米戦争はなぜ始まったか」』(チャールズ・A・ビーアド 著/藤原書店)より) 原油を取りに行くため立ち上がったはずが、それを運ぶ詰めができていなかった日本。一方で軍需物資がなければ戦争はできないという基本を守り通したアメリカ。戦う前から勝負は付いていたような気がしてなりません。 なお、イギリスがレンドリース法で借りた分の米国への返済は、なんと2006年までの61年間も続いたそうです。 著者は商社でエネルギー関連業務に従事した方です。エネルギーアナリストとしての確かな目で、明治維新以降、日本が取ってきたエネルギー政策を評論しています。 この本にはいくつもの新しい視点が提示されていて、興味の尽きない資料集ともなっています。 ひとつ筆者の私が気になるのが、日本海軍はオクタン価92のガソリン製法を、最後まで日本陸軍に教えなかったという噂。著者の岩瀬氏は、当時の日本の精製技術では、オクタン価92の航空揮発油は製造できなかったはずだ、と推察されています。どちらが正しいのでしょうか。 どなたか当時の軍事技術に詳しい方に、再検証していただきたいテーマですね。(水) --------------------- 「できる!」ビジネスマンの雑学 ジャンル別 --------------------- 〇ニュースを読む 〇出来事 〇本・雑誌 〇IT関連 〇旅 〇食と料理 〇教育 |
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