文化の日の11月3日、筆者はご近所で開催された「第2回農家みちバーガーフェスティバル」という農家をめぐるツアーに参加してきました。
旬野菜でハンバーガー 東京・小金井の農家がイベント
東京都小金井市で25日から、「農家みちバーガーフェスティバル」が始まる。ハンバーガー専門店やパン屋など10店が、地元産の旬野菜を使った「里芋のベジバーガー」「バーベキューバーガー」などを販売。バーガー作りや農家での収穫体験もある。11月15日まで。初日は午前11時からJR東小金井駅近くで10店が集まるイベントも開催。
(朝日新聞デジタル >地域>東京 2015年10月24日掲出)
「農家みち」とは東京都立小金井公園の南側にある巾2メートル弱の小道のことで、その両側に農家や畑が点在、東京とは思えないのどかな風景が広がっています。
二十人程の参加者はスタッフの方に引率されて、公園への秘密の抜け道を歩いたり、古びた祠(ほこら)を発見したり。
たどり着いた先は一軒の農家の庭先。江戸時代から農家を営む大堀さんに畑を案内していただき、東京野菜の栽培について話していただきました。
ここ「農家みち」の農家は野菜ばかり作っていたわけではないそうです。30年前のバブルの頃は、ゴルフ場があちこちに造成され、芝生が飛ぶように売れたとか。おかげでこのあたり一面は芝生畑だったそうです。
その後、街路樹の需要を見込んで、ハナミズキを大量に育成。一時期は農家と言うより植木屋さんでした。
ところが、石原慎太郎都知事から「ハナミズキばっかり植えるんじゃないよ」の声があったかなかったか。ハナミズキの需要は落ち込み、植木屋は廃業しました。
今は江戸時代に作られていた江戸東京野菜を作っているそうです。
なかなかめまぐるしいというか、需要を見越した土地活用を考えないと、農家も生き抜いていけないのだと知らされました。
高級フランス料理店の「オテル・ドゥ・ミクニ」に江戸東京野菜を納品しているとのこと。ただし、料理の仕上がりを考えて、大根一つでも葉の長さ十センチ、根も十センチに統一するよう求められるそうです。
いまの野菜は糖度さえ高くすれば売れると思い込んでいます。今どきの売れる野菜は野菜本来の甘さではなく、果物の甘さになってしまっていないか。野菜本来の苦み、えぐみ、香りは二の次になっている。これでは野菜を作る意味も野菜を食べる意味も、肝心の栄養素も失われている。
江戸から続く伝統野菜がいま求められる理由は、その癖の強さではないだろうか。
畑の真ん中、両手に大根を抱えてのご主人の熱弁に、聞き入ってしまいました。
次にたどり着いたのが、真蔵院というお寺。ここには農家の高橋さんが待ち構えていました。
高橋さんも伝統野菜を作る農家で、TPPで農家はどう変わるのかというお話でした。
企業が農業を支配する時代がもう目の前にきています。これからますます野菜はF1野菜ばかりになります。F1野菜は成長した野菜から種が取れない品種です。農家は毎年種を買わなければ農作物が作れなくなります。また、将来はF1の品種との雑交配をさけるため、伝統野菜の栽培が禁止される恐れすらあります。
少し怖い話となりましたが、伝統野菜の命を絶やさないよう、私たちは次の世代に野菜本来の味を伝えていく使命があるというお話でした。そして、伝統野菜の大根をお裾分けで、みなさんいただきました。
最後は参加者全員が大根をかついだまま、喫茶店に入店。スタッフの方の弾き語り、「農家みちものがたり」を聴きながらのティータイム。農家みちがたどった歴史に想いを馳せ、密度の高い充実した時間となりました。
筆者なりにツアーのまとめ。
東京の農家の現状をご本人たちから聞くことができたのが、とても刺激的で良かったです。
・稼げる農家であれ
・稼げる農家を作れば、後継者はできる
・情報に敏感であれ。しかし情報に流されるな
・需要に耳を傾けろ。しかし主張を持った農産物であれ
全国の農家から聞こえてくる後継者不足の声、高齢化の波。稼げないから後継者がいないのか。後継者がいないから、稼ぐ気にならないのか。どの地域でもその地域なりの事情があるにせよ、東京で元気な農家さんの声を聞けたのが、なによりの収穫でした。
ツアーの翌日、このコラムを書き上げた後、いつもなら見過ごしてしまう記事が、ふと目にとまりました。これも農家みち効果でしょうか。(水)
財務省、コメから野菜への生産転換提言 財制審
財務省は4日、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)を開き、農業の生産性向上策を議論した。生産が消費を上回るコメについて、収益性の高い野菜に生産を転換するよう提言した。農道や水路を整備する「土地改良予算」はコスト削減を前提とする農家に限って配分すべきだとした。
財務省によると、コメ農家が10アールあたりの水田から得る収入は補助金を含め12万3500円。露地タマネギは約32万円とコメの2.6倍にのぼると示し転作を求めた。さらに飼料米や小麦の生産では補助金に過度に頼る収入構造が「売れるものをつくるという経営マインドの発揮を阻害している」と指摘した。
(日本経済新聞 電子版・経済 2015年11月4日掲出)
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「物語屋」中川哲雄さん
「今も昔の農家みちものがたり」
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