私たちはアンケートや調査統計を根拠とした報道は、疑うことなく読んでしまいます。歴史のある名の通った新聞社ならなおさらです。
小学生の日常行動を調査した内容から、ある大手新聞社が以下の記事を作成し報道しました。
現代の小学生:82%がマッチ使えず
マッチで火を付けることができる小学生は、20年前の約3分の1--。象印マホービン(大阪市北区)が実施した子どもの生活体験に関する調査で、マッチや缶切りを使えない小学生の割合が、20年前に比べて増えていることが分かった。
調査は今年5月、首都圏に住む小学生の母親を対象に、インターネット上で実施。330人から回答を得た。同社は、同様の調査を20年前の1995年5月に調査票を用いて実施しており、今回の結果と比較し、発表した。
(毎日新聞 2015年9月13日掲出)
http://mainichi.jp/select/news/20150914k0000m040023000c.html
この記事からはマッチを渡された小学生10人のうち8人までが、その使い方がわからず、呆然としていたと読み取れます。大人にとってはちょっと驚きですね。
ところが、調査を実施した企業(象印マホービン)のサイトを見てみると、事実はそうではありません。
● マッチで火をつけることができる
「できる」18.1% 「できない」13.1% 「やらせやことがない」68.8%
(20年前 「できる」58.9% 「できない」15.4% 「やらせたことがない」25.8%)
「イマドキ小学生の生活体験に関する調査」(象印マホービンより引用)
https://www.zojirushi.co.jp/topics/shougakusei.html
マッチで火をつけられる子の割合は、確かに20年前の6割から2割弱に減っています。しかし、できない子は13.1%で、20年前の調査からは2.3%減少しています。有効回答数330サンプルですから、前回より「できない」子は8人近く減ったといえます。
マッチを使えない子は減っているのに、なぜ「現代の小学生:82%がマッチ使えず」という見出しが躍るのでしょう。
実は統計の読み方を都合良く変えることで、センセーショナルな見出しがひねり出されていました。
統計では20年前「やらせたことがない」子は25%でしたが、今回は68%に増えています。できるかできないかわからないという「調査対象外の子どもは7割近い」というのが真実です。
つまり、もうマッチを擦る体験そのものがなくなっているから、過去との比較調査は難しくなった、と考えられます。
調査した企業でも「マッチも、使い捨てライターの普及や、生活上、必要性が減ってきており」(象印マホービンより引用)と、マッチの必要性が薄れたことをコメントしています。
ところがこの新聞社は、「調査対象外の7割(68.8%)の子ども」を「できない(13.1%)」に入れて、その合計81.9%を四捨五入、調査結果にはない82%という、存在しない架空の数字を作っていることがわかります。「缶切りで缶詰を開ける」についても、同様な曲解が行われているようです。
このような報道はミスリードでしかなく、かたよりのない調査という精神を著しく傷つけています。
子供がマッチを使えないと騒ぐより、調査結果を尊重しないマスコミの報道姿勢を正してもらいたいものです。
数字に裏打ちされたレポートや報道に、読者が反論しにくいことを先週、このコラムで述べたばかりです。([134]根拠の薄いデータで人を踊らす、若者のパソコンスキル調査)
私たち読者は、調査の内容を精査するという面倒な作業をしなければ、安心して新聞を読めなくなったようです。(水)
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