入社して新人がまず気がつくこと。それは周囲の日本語がカタカナだらけに一変することです。最近はそうでもないでしょうが。
筆者が最初に配属された部署名は、セールスプロモーション部プレミアムプランニンニン・・・。恥ずかしながら何をする所かさっぱりわからず、とりあえずニコニコしていました。
そして諸先輩の会話。カタカナ略語に「てにをは」をつけただけで交わされる言葉は、先月まで江戸書物を読んでいた国文科卒の耳には言語というより、暗号の交信にしか聞こえません。
毎朝新聞を綴じておくのは新人の仕事で、一週間経ったら捨てるのかと思いきや、それを大事に保管するのも新人の仕事でした。しかし、日本を代表するその経済紙を広げても、ラテ欄(ラジオテレビの番組表)は奥深いところにあり、紙面の価値が分かりません。しかも悲しいかな、理解できる記事はひとつもありませんでした。
さらに運の悪いことに、職場にはまだ日本では普及していなかった米国製ミニコンがあり、その習得すら課せられました。仕事に取りかかる以前に、カタカナ略語とコンピューター英語の二重苦に悩まされました。
自分は変体仮名(※1)は読めるし、古語の活用だって「け, け, く, くる, くれ, けよ(※2)」とできるし。同じ日本人なのになぜ、と胃がキリキリと痛んだ記憶が今も残っています。
今年の春も、慣れないビジネス用語の壁にぶつかり、胃の痛む思いの新人の方もいることでしょう(いや、いないか)。
これはヤバイと思った筆者は、ページを好きなだけ足せるバインダー式のブックカバーと帳面の束を購入しました。
そして、数ページおきにアルファベットの見出しをつけて、新しいカタカナ語を見つける度に手書きで記録していきました。同時に意味を調べ、英文の綴りが分かれば書き足しました。
要は自前の外来語辞典とコンピューター用語辞典を作ったわけです。
会社では会話が分かったような顔をして、知らないカタカナ語を手のひらにこっそり書きとめ、アパートに帰ると会話を思い起こしながらノートに転記。同じ単語が2度も3度も書き込まれたりしましたが、仕方ありません。これが新人の実力ってものです。
半年くらいは、海外からの研修生かと思うくらい、会話がかみ合わなかった気がします。
3年ほど帳面作りを続けた結果、ようやく人並みにビジネス会話らしいことができるようになりました。やれやれ。
いまはスマホで何でも調べられてメモも取れます。しかしセキュリティ対策によりスマホ持ち込み禁止の職場も増えています。だからこそ、職場や得意先でおもむろに使い込まれたノートブックを広げる新人くんは、きっと好印象を持たれるはずですよ。(水)
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※1=変体仮名:かな五十音字以外のかな表記の総称。決して「変態」ではない。
※2=古語の活用:「け, け, く, くる, くれ, けよ」は下二段活用。
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