今を去ること数十年前、とある企業で教えられた仕事の作法をご紹介します。
封筒は破って捨てろ
郵便で届いた封筒は中身を出したらそのままゴミ箱に捨てては・・・いけないのでした。
中に何もないことを確認したら、袋として使えないよう細かく破るか、シュレッダーにかけるのがルールでした。中身の取り忘れを防ぐためですが、清掃の方が中身を確認する手間をかけさせない心遣いもあったようです。
封筒には送り主と宛先の両方の住所が書いてあるため、情報の流出を防ぐ意味もあります。もちろん空き封筒の使い回しも厳禁でした。
最近は用件が手紙でくることはめったにありませんが、いまでも必須のルールとして通用しますね。
ところで、私の大学時代の恩師、私宛ての手紙はいつも使用済み封筒を裏返したお手製のものでした。ルール、破ってます。
あるとき恩師から送られた本を持って師のもとを訪ねました。奥様は本よりその封筒に目を輝かせて、「あら懐かしい。それは私の手作りですよ。本を買うのにお金がかかるから倹約だと主人が言って、沢山作らされましたのよ」
私には初耳でした。続けてもう一言「もちろん気を使う宛先には使いませんでしたけどね」
まあ、そうでしょう、教え子にはそんなものでしょうとも。と思うと同時に恩師が貫いた生き方に、
そびえ立つ山を仰ぎ見るような気持ちを覚えました。
先生は江戸時代の古文書を精力的に集め続け、ついにはご自身の名前を冠する文学コレクションを持つに至ったのでした。
掟も上手にやぶると、山をなすものですね。
残念ながら、私がその手作り封筒を奥様に披露できたのは、恩師の葬儀の場でした。
雲英末雄編
『江戸書物の世界 雲英文庫を中心にたどる』
(笠間書院)
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